株式会社村田製作所
博士課程修了年 2020年3月
所属研究室 構造無機化学研究室
応用化学コース卒業後の進路 応用化学コース→大学院総合化学院物質化学コース修士課程/博士後期課程→株式会社村田製作所
応用化学コースを選んだ理由:総合入試の一期生、多くの学科を見て参考に
私は学部2年次への進級時に専攻学科を選ぶ「総合入試」の1期生でした。成績の良い者から希望学科へ配属されるのですが、多くの学科を見学させてもらい、理学部の物理学科、工学部の情報系も希望し、最終的に応用化学に配属されました。
応用化学を選択肢のひとつにした理由は、詳細なことはわからないながらも、研究内容をイメージできたことです。総合入試の導入から10年以上が経ち、希望の配属先に行ける成績の目安が決まりつつあると思いますが、皆さんにはその指標だけにとらわれず、多くの学科を見て判断されることをお勧めします。
印象に残っている授業:「学び続ける力を養うために、研究室生活を大事に」
当時、増田研の准教授だった多胡輝興先生(現・東工大教授)が、反応工学の講義最終回で「研究室配属後や卒業後、学び続ける力を養うことが座学よりも大事だから、研究室生活を大事にしてほしい」とおっしゃったことを、勉強内容よりも覚えています。
「研究室を見学させてほしい」と相談すれば、先生方はお忙しい中でも対応してくださると思います。こういうことは周囲と群れず、勇気をもってご自身でコンタクトを取られることをお勧めします。自分から行動し、見聞きしたことを信じて判断してください。
応用化学コースの魅力:将来の応用に活きる、幅広い分野を包括的に学べるチャンス
ひとくちに「化学」と言っても生化学、化学工学、有機/無機化学など様々なカテゴリがあり、学部時代に多くの講義を包括的に受講できたことは非常に良かった点です。
研究室配属から今に至るまで、それらの知識を組み合わせて対応する必要がある課題に沢山遭遇しましたので、その時々の興味に左右されるかもしれませんが、先生方のお話を一通り聞いておくことをお勧めします。
幅広い分野の研究室があるのは間違いなく長所です。短期間勉強した結果にすぎないテストの得点を判断基準にせず、本当にご自身が学んでみたい分野の門を叩いてください。
在学中の研究テーマ:誘電体の焼結技術と電気物性解明を目標に酸窒化物の単結晶を作製
セラミックスの研究室で、配属時の教授は吉川信一先生でした。磁性体などの候補の中、誘電体の焼結(焼き固める)技術と電気物性解明の課題をジャンケンでいただきました。
物質の電気物性は粉末では測れず、最低でもセラミックス、理想的には単結晶が必要です。私が調べていた「酸窒化物」はそれらの作製が極めて困難なのですが、色々と遠回りして小さいながらも単結晶の作製に辿り着き、既知の材料とは異なる機構で強誘電性という性質が発現していそうだという結論を得ました。道中で多くの方のお世話になれたので、遠回りも悪くないです。
構造無機化学研究室の「ここがスゴイ!」:独自のアプローチで技術的難易度の高い課題に挑む
非酸化物という取扱いの難しい物質群の性質を調べるため、固体物理・化学分野で必要な技術と考え方を高い水準で会得できる点が長所です。
技術的難易度の高い課題に数多く取り組みましたが、「やらなければよかった」と後悔したものはありません。自分の要求に合わせた実験器具や方法を検討・作製した経験は、先行研究のほとんど無い特殊な物質群に関わる多くの貴重な知見をもたらしました。
この余裕の無い時代に5年以上にわたり、難しいもの・珍しいものに結論を得るまで挑戦し続けることが許されたのが、一番ありがたかったです。
学生時代の学びや経験:友人たちと北海道旅行、世界における立ち位置も意識
北海道に居られる時間は非常に限られていたので、休暇があれば旅をしていました。利尻島、日高山脈、知床などを訪れた記憶を共有できる友人がいたことが一番の財産です。
一方で、日本という老いゆく国家に生まれた若者はつぶしがきかないということに危機感があり、少なくとも自分が関わる分野については世界中の情報を集めて勉強を続けています。一部メディアで「理想の働き方の場」ともてはやされるドイツにも行かせてもらいましたが、私の周りの人は早朝から夜まで仕事漬けで、ポジションの獲得にもがいていました。
MY FUTURE:未来の世代に信頼される知見をひとつでも多く残したい
先生方の言葉の受け売りですが、最短ルートだと思っていた道が遠回りであった経験や、結果には直結しなかったトライアルを道中で沢山積むことが出来るのは、大変貴重なことです。
何事も、正しい判断や価値のある結論に辿り着くには長い時間を要することが多いと思います。科学技術に限らず、立てつけの短絡的なゴールに惑わされずに生涯学び続けられる環境を確保する必要があります。
地続きの長い歴史の中に、私自身や周りの人が、未来の世代に信頼され得る知見をひとつでも多く残すことが、現在の私の目標です。