構造欠陥のない全π共役系環状高分子
2023.07.26
π共役系を持つ大環状分子は、そのユニークな光学的、電子的、磁気的特性から注目されています。当研究室では代表的な導電性高分子であるpoly(3-hexylthiophene)(P3HT)について研究を行い、全π共役系環状高分子合成法の確立および環構造特有の新奇物性を発見しました。全π共役構造を持つ大環状分子は様々な興味深い特性の発現が予想されるため、理論・計算化学を中心にシミュレーションに基づいた研究が行われています。しかし、合成には多くの困難が付随し、実際の合成例は非常に数少ないため、予想される特性の発現を確認できたものは限定的でした。このような状況の中で、当研究室では構造欠陥の全くない全π共役構造を有する環状P3HTの合成に成功しました[Macromolecules, 2018, 51, 9284. DOI: 10.1021/acs.macromol.8b01681]。さらに、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてそのトポロジーを観察しました。また、様々なサイズの環状P3HTを合成し、環トポロジーに起因するユニークな電気的性質を検証しました[Polymers 2023, 15, 666. DOI: 10.3390/polym15030666]。電気化学測定より、環サイズに応じた電子軌道エネルギーの変化が見られました。さらに、電子スピン共鳴(ESR)や吸収スペクトルの結果、環状P3HT上に存在するポーラロンと呼ばれる電子の相互作用が見られたのに対し、直鎖状P3HTでは複数のポーラロンが孤立した状態でした。さらに、環状P3HTのポーラロンの相互作用は、小さなサイズの環ほど顕著でした。