水素を使った環境に優しいものづくり
2022.03.27
わたしたちは、医薬や香料などの原料として需要が非常に多い「光学活性アルコール類」の不斉合成に着目して研究を進めています。光学活性とは、ある分子群が右手型あるいは左手型のどちらか一方だけである状態を示します。数ある不斉合成法のうち、わたしたちが選んだのは、「ケトン類の不斉水素化反応」です。ケトンとよばれる平面性分子の表または裏から選択的に水素を付加させることで、光学活性アルコールを作り分ける、すなわち、立体選択的に合成することができます。ただし、安定な分子であるケトンと水素をただ混ぜただけでは反応しません。そこで、わたしたちは、ケトンの水素化を効率的に促進する光学活性な「分子触媒」を使いました。優れた分子触媒は活性が高く、触媒1分子で10万分子ものアルコールを合成できますので、経済性にとても優れています。また、この反応はケトンに水素を付加させるだけで、副生成物を出すことなく光学活性アルコールを非常に高い立体選択性で与え、副生成物もありませんので、環境にも優しい反応となります。したがって、ケトン類の不斉水素化は、環境調和をも見据えた理想的な合成プロセスとなり得るのです。