常識ごとひっくり返す!”イソ”ニトリルの触媒的合成
2022.03.27
一般にシアニド(青酸化物イオン、CN–)は、炭素側で様々な試薬と反応しニトリル (R–CN)という化学種を与えます。この反応は「求核置換反応」と呼ばれる反応の典型例として大学の有機化学の教科書に記載されている、いわば「常識的」な反応です。一方、シアニドが窒素求核剤として働けばイソニトリル (R–NC)が生成し、ペプチドや有機材料の合成原料として有用なイソニトリルの効率的かつ一般的な合成法になると期待されます。ところが、シアニドの炭素は窒素よりも格段に求核性が高く、また、生成物のニトリルがイソニトリルよりも安定なため、求核置換反応によるイソニトリルの合成は至難の技でした。われわれは100年にも及ぶこの難題を解決する手段を見つけました。アリルリン酸エステルとトリメチルシリルシアニド (TMSCN)を触媒量のPd (OAc)2存在下に反応させると、対応するアリルイソニトリルがほぼ定量的に得られたのです。安定なアリルニトリルの生成は全く認められませんでした。わたしたちはその応用を含め、この反応をさらに深く研究しています。